京都新聞 口丹随想 (2)
小林和子 (掲載日 1997.1.19.)
見出し:自分のケミストリーを探すこと
新年にあたっては、何か目標をたて実行に移そうと思うものですが、それが本人に適している場合は案外たやすく達成できますが、あわない場合、つまり相性が悪い場合には、努力が無駄に思える結果に終わることがあります。
物質の化学反応でも、化学的に相性の良いものどうしの間では、外からの力はあまり必要なくて自発的に進むのですが、その物質についてどれが相性がよいのかは初めからわかっているわけではありません。現在100種あまりの元素が知られていますが、酸素のようにほとんどすべての相手と結合するものもあれば、正反対にヘリウムやネオンなど希ガス元素のように自己完結していて相手を必要とせず単独で存在するものもあります。その物質の持ち味を知るためには、まずは種々の相手とさまざまな条件で反応を試みてみなければわかりません。試行錯誤の末にようやくベストと思われる相手や条件がみつかります。そういう相手とは、多大な努力や困難がほとんど必要なくすんなりと反応が進むのです。本来、化学的に相性が良いものを反応させるのが最良ですが、その相手を探すことに大半の努力が費やされるわけです。
人間関係も一口でいえば相性ですが、相性が悪いことを、ケミストリーが合わないとか、ケミカルミスマッチというように、物質の化学的な反応に似ています。相性が良いかどうかは最初には本人にわからないことが多いのです。適した仕事が何なのかも大きな関心事ですが、これも始める時からわかっている人はわずかだと思います。うまくいけば、運がよくて相性が良かったの一言で片づけられますが、それまでの表にでない試みや努力がなければ見つけることはできないはずです。時々、学生さんから何に向いているのか、何をやりたいのか自分でもわからないという進路や適性や将来性などについて話をきくことがありますが、実は、私自身もいまだに自分の身の丈すらよくわからないので、似たようなものだと言っています。ただ、若ければ、たとえ失敗したり、相性の悪いことをやったり、相性の悪い人とつきあって傷つくことがあっても立ち直りが早いし、周囲も若い時期の悩みにはだれでも経験がありますから、寛容に大目にみてくれるということはあります。
実行する前にあれこれ心配し、期待に添えないことを気にして何も手につかないことがありますが、その時やってみたいと思うことを恐れずにとりあえず経験してみることが大切だと思います。最近は、期待にこたえようとがんばりすぎて、本来の自分を見失う人が多いようですが、勇気というものを思い出そうと思います。迷うけれど実際に行動するのは本人ひとりしかいないし、その時選ぶことができるのはひとつです。勇気を出してやってみてダメだと思えば引き返すなり、他の道を探せばよいわけで、自分のケミストリーつまり持ち味を探すために、行動して結果を出すことが大切で、それは自分のしたことに自分で責任をとることにも通じると思います。
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