助教 本城 久司
Assistant professor Hisashi HONJO
治療対象の症状・疾患について鍼治療
- 頻尿・尿意切迫感・尿失禁
頻尿(日中のトイレの回数が多いこと、日中8回以上)
夜間頻尿(夜寝ているときに何度もトイレに起きること)
尿意切迫感(急に抑えられないような尿意が起こり、我慢できないこと)
切迫性尿失禁(急に抑えられないような尿意が起こり、我慢できずにもれてしまうこと)
などの症状でお困りの方は多いのではないでしょうか?
あるいは、排尿症状があっても「歳のせいだろう」などとあきらめておられる方、「恥ずかしくて相談できない」または「どこに相談したらよいかわからない」などと思われている方も多いのではないでしょうか?
2003年日本排尿機能学会の調査で、40歳以上の男女のうち頻尿や夜間頻尿の症状をお持ちの方は50%を超えているにもかかわらず、医療機関を受診された方は18%程度であったと言われています。
2002年排尿に関する国際学会(国際尿禁制学会)において、尿意切迫感を主な症状とする頻尿や夜間頻尿を伴う病態を過活動膀胱と定義されました。日本では40歳以上の男女の12.4%にみられるとされ、約800万人の患者さんが存在すると推計されています。
過活動膀胱に対しては、検尿での異常がなければ、症状(尿意切迫感)のみで診断し治療することを推奨しています。
このような症状をお持ちの方は、あきらめず、恥ずかしがらず、泌尿器科にご相談されることをお勧めします。
薬物療法や行動療法によって、多くの場合症状の改善が期待できます。
頻尿・膀胱不快感・膀胱痛
排尿を我慢した時に膀胱の痛み(あるいは痛みのような不快感)を感じた方はおられませんか?
あるいは、排尿の前後で痛みや不快感があって病院を受診しても、検尿は特に問題なく『膀胱炎ではありません』と言われたことはありませんか?
そのような方は間質性膀胱炎の可能性があります。
間質性膀胱炎とは、一般にはまだあまり知られていない病気ですが、潜在的な患者さんが意外に多いと考えられており、現在、泌尿器科においても注目されている疾患のひとつです。
欧米を中心に長い間研究されてきた病気ではありますが、原因や病態が複雑でいまだ不明な部分も多い疾患です。
現在日本では「膀胱の非特異的な慢性炎症を伴い、頻尿・尿意亢進・尿意切迫感・膀胱痛などを呈する疾患」と定義されています。
間質性膀胱炎は女性に多い病気です。細菌感染によっておこる急性細菌性膀胱炎とは異なり、膀胱炎であっても無菌性膀胱炎なので、抗菌剤の服用では治りません。
代表的な症状は、頻尿と尿意切迫感・膀胱痛ですが、初期や軽症の患者さんは膀胱痛がない場合もあります。
また、尿失禁はほとんどないことが多く、頻尿と切迫性尿失禁がある場合は過活動膀胱が疑われます。
そのため、間質性膀胱炎の治療には、まず「間質性膀胱炎」と診断されることが重要になります。
夜尿症
おねしょは生まれたときは誰にでもあるものですが、徐々に自然消失します。
夜尿症は睡眠と排尿の機能がほぼ完成する5歳以降のおねしょと考えますが、5歳以降の場合でも徐々に自然消失していき、8歳までにほとんど治ります。
そのため、8歳以降続くおねしょが治療の対象となると考えられます。
ただ、昼間の尿もれがある場合は、膀胱機能が未発達か、病的に障害されている可能性も考えられ、8歳よりも早く治療を開始する必要があります。
夜尿症の原因として種々の説がありますが、大きく分けると、膀胱機能の未発達、排尿機構と睡眠機構との連携が未成熟、夜間睡眠中の尿量が多い、の3つに大別されます。中でも、排尿機構と睡眠機構との連携が未成熟な夜尿症が最も多いと報告され、薬物療法や行動療法によって膀胱機能の発達とともに、睡眠機構の発達が促され夜尿症の治癒がはかられると考えられています。
会陰部不快感・会陰部痛
会陰部不快感・会陰部痛、あるいは下腹部痛や排尿時痛、射精時痛がある男性の多くは慢性前立腺炎が考えられます。
臨床的に、前立腺炎は急性細菌性前立腺炎、慢性細菌性前立腺炎、慢性非細菌性前立腺炎・慢性骨盤痛症候群に大別され、細菌性前立腺炎の場合は抗菌剤(抗生物質)による薬物療法が中心になります。
慢性非細菌性前立腺炎・慢性骨盤痛症候群の場合も薬物療法がなされ改善が期待できますが、長期にわたって症状が続く症例が多いのも事実です。
症状が強く自覚される背景に長時間の座位、食事、ストレスなどがあり、薬物療法とともに、行動療法も必要になる場合があります。
症状がストレスとなり、さらに症状を増強させる可能性も考えられ、早い段階で積極的に治療を受けられることをお勧めします。
男性更年期障害
「最近、仕事の能力、運動をする能力や体力が低下したと感じますか?」
「もの悲しい気分になったり、怒りっぽくなったり、毎日が楽しいと思うことが少なくなりましたか?」
「勃起力が弱くなったり、性欲が低下していませんか?」
こうした症状がみられる30歳代以降の男性には「男性更年期」の可能性があります。
男性更年期とは加齢に伴った男性ホルモン(テストステロン)の低下が主な原因と考えられています。男性ホルモンは性機能に強く関連しているので勃起障害などから「男性更年期」であるとわかる場合が多いのですが、男性ホルモンは記憶力などの認知機能や、筋力などの身体機能あるいは気力などの精神機能にも関わっているので、中高年男性の抑うつ感や疲労感などの精神症状は「ストレスによるもの」ばかりとも言えません。
具体的に、男性更年期症状は精神神経症状(抑うつ感、疲労感、記憶力低下、苛立ち、不眠など)、性機能障害(性欲低下、勃起障害、射精感の減退など)、身体症状(筋力低下、体力低下、骨粗鬆症、ほてり、発汗など)の3つに大別されます。
女性の更年期症状はほてり、発汗、冷えなどの自律神経症状が多いと言われていますが、男性の場合は男性ホルモンの低下が徐々に起こり、心身症などうつ状態になることが多いと言われます。
近年、こうした症状を専門的に診察・治療する男性外来、男性更年期外来が開設されています。気になる症状がおありの方は、受診をお勧めします。
不妊症
不妊症とは正常な夫婦生活があって、挙児(お子さんの出産)を希望しながらも2年以内に妊娠しない状態を言います。
不妊症の原因にはさまざまな原因がありますが、不妊症の女性側の原因は約5割で、男性側が約3割、その他の原因が約2割といわれています。
日本ではこれまで、女性にほとんど原因があると考えられていましたが、原因の約半分でしかなく、女性ひとりで妊娠はできませんから、当然と言えば当然の結果と言えます。いずれにせよ、不妊の原因は男性・女性ともにあるのですから、不妊の検査をするときには二人とも検査を受けられた方がよいでしょう。
男性の不妊症の原因のほとんどが精子の数が少ないか、またはその運動が不十分な場合や、まれに無精子症があります。
女性の不妊症の原因のほとんどの場合は、子宮や卵巣の機能、ホルモンの分泌の障害が考えられます。
その他に、精子を標的とした抗体(抗精子抗体)が作られてしまうことが不妊の原因になっていることがあります。
原因に応じて、男性・女性それぞれの治療がなされますが、人工授精や体外受精などの生殖補助医療は非常に有効な治療手段となります。それぞれの原因等に沿ってステップアップがはかられます。
おひとりで悩むことなく、積極的に相談することをお勧めします。
過活動膀胱に対する鍼治療
過活動膀胱に対して仙骨部に週1回の鍼治療をおこない、鍼治療4回後、約70%の症例に切迫性尿失禁および尿意切迫感が改善しました。
さらに、1回の排尿量が増大したことにより、頻尿の改善が得られました。
その他に、すでに過活動膀胱に対して薬物療法を受けておられるものの、効果が不十分な場合や、副作用で薬物療法が継続できない症例に対しても鍼治療を行っています。
鍼治療の効果として、異常な尿意を抑える効果が考えられます。過活動膀胱に対する薬物療法は膀胱の筋肉(膀胱平滑筋)の抑制効果によって、尿意切迫感や切迫性尿失禁の改善に結びつくと考えられていますが、鍼治療は尿を貯めているときの膀胱からの情報をコントロールすることによって、尿意切迫感を改善し、切迫性尿失禁が起こる前に排尿を完了することが可能になると考えています。
そのため、患者さんの1日の排尿の記録をしっかり観察する必要があります。
1日何回トイレに行くのか?
1回どのくらい尿が出るのか?
どのような尿意で排尿するのか?
この3点が、過活動膀胱の患者さんの病態を把握するだけでなく、治療上にも非常に有益な情報を与えてくれます。鍼治療を受けられる患者さんにも、排尿日誌を記録いただいており、治療を進める上でとても役立っています。みなさんも一度記録してみませんか?
その他、過活動膀胱でお悩みの方は是非ご相談下さい。
間質性膀胱炎に対する鍼治療
間質性膀胱炎に対して仙骨部に週1回の鍼治療を行っています。
鍼治療8回後に、頻尿の改善、膀胱痛の軽減が得られました。
間質性膀胱炎においても、排尿日誌による病態の把握と治療効果の判定が必要であり、症状の経過と排尿日誌によって治療計画が左右されると言っても過言ではありません。
間質性膀胱炎の鍼治療について、間質性膀胱炎は難治性の病気であり、治療が長期間におよぶ可能性もありますが、比較的早期に治療を開始することが重要で、治療を重ねることにより排尿回数の減少や膀胱痛の改善が期待できます。
また、京都市立病院泌尿器科の上田朋宏先生とも連携して治療を行っております。
間質性膀胱炎でお悩みの方や「間質性膀胱炎では?」と思われる方はお気軽にご相談下さい。
夜尿症に対する鍼治療
夜尿症に対して、仙骨部に週1回の鍼治療を行っています。
鍼治療4回後に40%の症例に夜尿出現頻度の減少がみられ、治療8回後で50%の症例の夜尿が消失していました。その際、夜尿が改善した群において鍼治療後に夜間膀胱容量が増大しており、夜尿症に対する鍼治療効果は睡眠中の尿の保持力が増大した結果であると考えられます。また、鍼治療が有効な患児の年齢は10歳以上の症例が多く、無効群では10歳未満の症例が多くみられました。このことは、鍼治療による夜尿症の改善や治癒に患児の年齢(10歳以上)も関連していると考えられます。
ただ、夜尿症が治癒するためには、そのお子さんの未発達の機能が成熟することが必要となります。そのため、根気強い治療が必要となり、たとえ鍼治療単独で効果が得られなかったとしても、それまで効果がみられなかった治療を、併用することによって急速に治癒過程に入る患者さんも少なくありません。これも鍼治療が何らかのお役に立てる治療法であることの証であると思われます。
慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群に対する鍼治療
慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群に対しては仙骨部への鍼治療あるいは、陰部神経低周波鍼通電刺激を週1回行っています。
慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群の原因の1つとして、骨盤内静脈にうっ滞所見があげられます。これは前立腺の周囲にある静脈の流れが滞った状態であり、長時間の座位などの圧迫で痛みや不快感が増強します。こうしたうっ滞所見があり、会陰部不快感・会陰部痛、あるいは下腹部痛や排尿時痛、射精時痛がある患者さんには、仙骨部鍼治療が有効であることを明らかにしました。
一方、うっ滞所見がない場合や、仙骨部鍼治療で効果が得られない患者さんには陰部神経低周波鍼通電刺激を行い、疼痛や不快感の軽減が得られています。
慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群は難治例が多く、治療が長期にわたることもありますが、根気強く治療を重ねていただくことで、何らかのお役に立てるものと考えております。
男性更年期障害に対する鍼治療
男性更年期障害の症状の1つである勃起障害については、仙骨部に週1回の鍼治療を行っています。
これまでの研究で、勃起障害に対する仙骨部鍼治療の効果が明らかになっており、有効な治療手段の1つであると言えます。
また、精神神経症状(抑うつ感、疲労感、記憶力低下、苛立ち、不眠など)、身体症状(筋力低下、体力低下、骨粗鬆症、ほてり、発汗など)については、それぞれの患者さんの状態に応じて、精神的なリラクゼーションと自律神経のバランスを整えることを目的とした週1回の鍼治療を行います。
また、男性更年期障害の治療は、原因となっている男性ホルモンの低下を防ぐために、テストステロン補充療法が基本となり、勃起障害やうつ症状に対する薬物療法も考慮されます。こうした治療に加えて鍼治療を行うことにより、更なる効果が期待できます。「男性更年期障害では?」と思われる方はお気軽にご相談下さい。
不妊症に対する鍼治療
明生鍼灸院(名古屋市)との共同研究により、難治性不妊症の患者さんに対して鍼灸治療を行うことにより、妊娠率を向上させることが明らかになりました。
胚移植などの生殖補助医療を5回以上おこなっても妊娠に至らなかった難治例(114症例)に対して鍼灸治療を行い、鍼灸治療後の妊娠率を検討したところ、114例中49例(43.0%)が妊娠に至り、そのうち 23例(46.9%)が出産まで至りました。妊娠群の妊娠方法について、追加の不妊治療を必要としなかった自然妊娠が8.2%(4例)にみられました。また、鍼灸治療後に不妊治療(胚移植)で妊娠に至った症例は妊娠群の89.8% (44例)でしたが、そのうちの68.2%(30例)は鍼治療施行後1回目の不妊治療で妊娠に至りました。さらに、そのうちの30.0% (9例)は10回以上不妊治療を経験していた非常に難治性の高い症例でした。この結果からわかったことは、鍼灸治療は生殖補助医療と違って、母体に対して妊娠・出産に適した身体作りとでもいうべき治療であり、不妊治療を補完する治療であるということです。
不妊症に対する鍼灸治療は基本的に、精神的なリラクゼーションと自律神経のバランスを整えることを目的として腹部、腰背部、下腿部の経穴に週1・2回の鍼灸治療を行いますが、排尿障害に用いている仙骨部鍼治療を行うと、不妊症患者さんの子宮血流が改善することがわかり、妊娠率の向上も得られています。
難治性不妊症に悩んでおられる方は、一度お気軽にご相談下さい。
一言
鍼治療による効果には当然限りがありますが、
患者さんのお役に立ちたいと思う気持ちに限りはありません。
すこしでも何らかのお役に立てることを心より願ってやみません。
E-mail:honjo@meiji-u.ac.jp