たには会20周年記念学術大会ポスター

鍼灸のポリモーダル受容器仮説の現在

川喜田健司、岡田 薫、伊藤和憲、桑野素子、鍋田理恵、萩原裕子、金本貴行  

【はじめに】

我々の研究室では、鍼灸刺激が体性感覚受容器の一種であり侵害刺激に密接な関連を持つポリモーダル受容器を興奮させ、内因性鎮痛機構やさまざまな生体調節機構を賦活させることによってその効果をもたらすとする、「鍼灸のポリモーダル受容器仮説」を提唱し、その検証を続けてきた(表1、図1)。これまでの研究の概要とその現状を簡単に紹介する。

表1:ポリモーダル受容器とは
 ポリモーダル受容器とは何か
  • 痛覚受容器の一種であるがその閾値は低い。
  • 侵害的な熱・機械・化学刺激に反応する。
  • 細い神経線維(Aデルタ、C線維に支配される自由神経終末である。
  • 全身のあらゆる組織(皮膚、筋、内臓)に分布する。
  • 種々の炎症関連物質によって感作される。(圧痛点の成因の一つ)
  • 効果器としての作用があり神経性炎症をもたらす。
  • 生体調節系に対する入力系とされる。
  • 鍼灸刺激の受容器の有力候補である。

  • 図1:ポリモーダル受容器仮説の概要
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    カプサイシン感受性を持つ細径求心性神経(その多くがポリモーダル受容器由来と考えられている)が鍼灸刺激による開口反射の抑制に関与している。(Okada et al, Brain Res 1996)

     麻酔下ラットにおいて、鍼灸刺激は侵害性反射とされる開口反射を抑制した。その抑制効果は、末梢神経束にカプサイシンを塗布すると消失した(図2)。カプサイシン塗布により、AδおよびC線維が選択的に遮断されていた(図3)。以上の結果から鍼灸刺激による抑制効果の発現に、カプサイシン感受性神経線維が関与することが明らかになった。

    図2:開口反射の筋電図に対する鍼刺激の抑制とカプサイシン処理によるその効果の消失

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    図3:カプサイシン処理によるAδおよびC線維の複合活動電位の消失

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    鍼灸刺激による鎮痛効果とDNICによる鎮痛は極めて類似しており、その求心路にはポリモーダル受容器のような細径線維受容器が関与している。(Murase et al, Jpn J Physiol,2000)

    全身のさまざまな組織への侵害的な刺激(熱、化学、機械刺激)によって細い神経線維(Aδ、C線維)が興奮すると鎮痛効果が生じることは、広汎性侵害抑制調節(DNIC)として知られている(図4)。麻酔下ラットの三叉神経脊髄路核の侵害受容ニューロン活動を指標に検討した結果、鍼灸刺激によってDNIC様の抑制が認められ、両者の求心路にはポリモーダル受容器の関与している可能性が高いことが示唆された(図5)。

    図4:DNICの典型例(ピンチ)

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    図5:ピンチ、鍼灸の抑制効果

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    内臓-体性反射に対して鍼灸刺激は抑制効果を持ち、その機序には視床の内側下核が関与している。(Sumiya et al, Jpn J Physiol, 1997)

    直腸・結腸の伸展刺激によって誘発される外腹斜筋の筋電図は、鍼灸刺激によって抑制された。その抑制効果は広汎性侵害抑制調節(DNIC)と呼ばれる現象と類似しており、その中枢機序に視床の内側下核が関与することが明らかとなった(図6)。

    図6:内臓―体性反射の鍼灸刺激の抑制と視床内側下核の関与

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    実験的トリガーポイントモデルにおける圧痛部位の発現には筋膜のポリモーダル受容器のような侵害受容器の感作が関与している(Itoh et al, IASP Abstract,1999)

    ツボとトリガーポイントの密接な関連が知られている。そこで、遅発性筋痛の現象を用いて実験的にトリガーポイントモデルを作成し、その詳細を検討した。伸張性収縮の繰り返し負荷を与えた筋に索状硬結と圧痛点が出現し、特に筋膜の痛覚閾値の低下が認められた(図7)。また、強い圧迫によって一定のパターンの関連痛が出現した(図8-A)。さらに索状硬結の圧痛部位から、強い響き感覚に同期して反射性の筋電図活動が記録された(図8-B、図9)。以上のことから、トリガーポイントはポリモーダル受容器のような侵害受容器が組織損傷による炎症物質によって感作されている部位である可能性が示唆された。

    図7:圧痛部位の分布

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    図8:関連痛のパターン(A)反射性の筋電図活動(B)

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    図9:トリガーポイントから記録された筋電図活動の模式図

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    【考察】

    トリガーポイントをツボの一種と考えると、ポリモーダル受容器仮説によってツボの意味を極めて明快に説明できる。鍼灸刺激がポリモーダル受容器を興奮させることによってDNICのような鎮痛機序をもたらすことは明らかとなっている。その刺激部位(ツボ)として、トリガーポイントや圧痛点が選ばれてきたのは、そこが鍼灸刺激に対してより感受性の高い部位(ポリモーダル受容器の感作部位)であり、より効率よくポリモーダル受容器を興奮させることが可能であり、より高い効果が得られたためと思われる。