研究部からの報告
世界的に鍼に興味が持たれていることを象徴するような記事がScience誌に載りました(Science, 1998年10月9日発行, 282巻, 242頁)。その内容の評価については留保しておきますが、鍼治療の始まりは古代中国ではなく、古代ヨーロッパだった可能性があると言い出したのです。その内容は以下の通りです。
オーストリア・チロル地方の氷河の中から発見されたヨーロッパ最古のミイラ(Tyrolean Icemanと呼ばれ、約5,200年前のものとされる)は、保存状態がよく、背中、脚など15か所に入れ墨が見られる。これらの入れ墨はいずれも線で構成された単純な幾何学模様で、その彫られている場所からみても、誇示する目的や装飾的な意味をもったものとは考えにくく、むしろ中国の鍼治療のツボを連想させた。そこで、入れ墨の位置を計測し、写真を撮ってそれを経穴図と重ねるなどの調査をするとともに、3人の信頼できる鍼師からも専門家としての意見を求めた結果、15か所の入れ墨のうち9か所はツボと重なるか、5mm以内のずれの範囲内にあったという。特に、背中に見られる5か所の入れ墨は膀胱経のツボに重なるか、ごく近傍にあった。また、左足くるぶし側面に見られる2つの入れ墨のうちの1つは崑崙穴に近い所にあった。
鍼の理論によれば、皮膚の特定局所、すなわちツボの部分の皮膚を鍼で破るか、刺激するかすれば器官の機能に変化をもたらし痛みや炎症が軽快されるとされ、その際に刺激するツボは必ずしも器官に隣接するツボである必要はないとされている。ところで、チロルのミイラはCTスキャンによって腰椎の関節炎に罹っていたことが明らかになっているが、ミイラの膀胱経に沿って見られる入れ墨の位置と、従来からこの疾患の鍼治療に用いられているツボの位置が一致しているのである。
これらの発見は、治療を目的とした鍼が行われるようになった時代が、古代中国における伝統医学の発祥(およそ1,000 B.C.とされる)よりもはるか昔であった可能性を示すと同時に、有史前における人類間の文化的接触が非常に遠くまで及んでいたことと考え合わせると、鍼治療の起源が地埋的に見て東アジアではなくユーラシアであった可能性を示唆していると考える。関連新聞記事(情報提供:中田和宏先生(財)東洋医学臨床研究所)
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