米国国立衛生研究所(NIH)合意形成声明

National Institutes of Health

Consensus Development Statement

鍼(ACUPUNCTURE)1997年 11月3日-5日


全日本鍼灸学会学術部研究委員長  川喜田健司

日本鍼灸師会組織部幹事      立枩 廷族 

全日本鍼灸学会学術部研究委員会   中村 行雄

全日本鍼灸学会学術部長        渡  仲三

この声明は「鍼療法に関する国立衛生研究所(NIH)合意声明1997年11月3-5日15(5)」として発行される(印刷中)。ここに電子媒体で提示される合意声明No107を文献として引用する場合には、以下の書式に従うことが望まれる:

NIH合意声明オンライン1997年11月3-5日「引用年、月、日」15(5):印刷中

このNIHの合意声明書は鍼の業界や連邦当局から独立した専門家のパネルによって、次の事項に基づいて作成されたものである。

(1)2日間にわたる公開会議において、問題の関連分野の研究者の発表。

(2)公開会議中の公開討論での質疑応答。

(3)会議2日目の残り時間と3日目の午前中に行われたパネルの非公開審議。

この声明書は合意形成パネル独自の声明であり、NIHあるいは連邦政府の政策的声明ではない。


目次

1)抄録

2)はじめに

3)評価に耐えうる十分なデータに基づきプラセボや偽鍼と比較したとき、鍼は効くと言えるか?

4)十分なデータのもとでさまざまな病状を治療する際に、他の治療法(無治療を含む)と比べて、あるいは鍼を他の治療法と組み合わせて、鍼に何ができるといえるか?

5)鍼の作用機序を理解するうえで、鍼には生物学的にどのような効果が分っているのか?

6)鍼を現在の保健医療体系に適切に組み入れるために、取り組むべき課題は何か?

7)今後の研究はどう進めるべきか?

8)結論と勧告

  合意形成パネル

  報告者

  企画委員

  会議の主催者と共催者


1)抄録

目的:

種々の病状に対する鍼治療の使用および効果についての信頼できる評価を保健医療提供者、患者、ならびに一般国民に明らかにすること。

出席者:

連邦当局や鍼の賛同者から独立した、鍼、疼痛、心理学、精神医学、物理療法とリハビリテーション、薬物中毒、家庭医療、内科、保健政策、疫学、統計学、生理学、生物物理学および一般国民の各分野を代表する12名のパネル。さらに上述の分野についてデータをパネルに発表した25名の専門家と一般参加者1,200名。

エビデンス(evidence、科学的根拠):

Medline上で文献の検索がなされ、広汎な参考文献目録がパネルおよび一般参加者に提供された。また、各専門家によっても関連文献の要約が用意された。臨床上の逸話的経験よりも科学的根拠が優先された。

合意に至る経過:

あらかじめ提出されていた質問にパネルが回答するとともに、公開討論会の場で提出された科学的根拠や科学的文献に基づいて結論を導き出すようにした。パネルが声明書の草案を作り、全体の読み合わせをした上で、専門家たち、ならびに一般参加者にその草案を配布して意見を求めた。その結果出された意見をパネルが調整し、再び声明書を練り直して会議の終わりに発表した。パネルは会議終了後の数週間でこの声明書を最終的なものにした。

結論:

鍼は治療法の一つとして合衆国で広く普及している。鍼の有用性を示唆する研究が今までに数多く行われているが、これらの研究の多くはデザインやサンプルサイズなどが不備のために明確な結果が得られていない。さらに、プラセボや偽鍼を対照群として用いる際に特有の困難があり、この問題はさらに複雑になっている。とはいえ、例えば成人の術後や薬物療法時の吐き気、嘔吐、および歯科の術後痛に鍼が有効であるという有望な結果が得られている。また、薬物中毒、脳卒中のリハビリ、頭痛、月経痛、テニス肘、線維性筋痛、筋筋膜性疼痛、変形性関節炎、腰痛、手根管症候群、喘息などに対しては、補助的ないしは代替的治療法として有用であろう。あるいは包括的な患者管理計画の中に含めることができるかもしれない。さらに研究が進めば他の分野でも鍼治療が役立つことが明らかになるであろう。

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2)はじめに 

鍼は中国では古くから医療体系の構成要素であり、少なくとも2,500年の歴史をもっている。鍼の一般理論の前提には、体をめぐるエネルギーの流れ(気)にパターンがあり、それが健康の保持に欠かせないという考えがある。その流れのパターンの乱れが疾患の原因と信じられており、鍼の施術者は皮膚近くにあるツボを使って”気”の流れの不均衡を調整することができる。米国の医療界では、1972年にニクソン大統領が中国を訪問するまでは、病理学的に明らかになっている疾患に対して鍼治療を行うことはまれであった。しかし、大統領の訪中を機に欧米において西洋式医療に鍼の技術を応用することに大きな関心が持たれるようになり、今日に至っている。

鍼とは、皮膚上の解剖学的な局所をさまざまな技法を用いて刺激することを含めた一連の処置を指すが、最もよく研究されているツボの刺激法は、細くて硬い金属の針を皮膚に刺入して、その針を手で、あるいは電気的に刺激する方法である。米国における鍼は中国、日本、韓国その他の国々の伝統を取り入れており、その診断や治療には多くの方法がある。

したがって、この報告書の大半は、このような刺激法の研究で得られたデータに基づいたものである。鍼治療に際しては、同様の局所を灸、圧迫、熱、およびレーザーを用いて刺激することも行われているが、研究が少ないためこれらの技法に関する評価はさらに困難である。

鍼は今日までに米国の何百万人という患者に利用されており、痛みの治療、痛みの予防、またさまざまな健康上の問題に対して、何千人という医師、歯科医師、鍼師などが鍼治療を行ってきている。最近になって米国食品医薬品局(FDA)は鍼に関する今日までの知見を検討し、鍼治療用の針を”試験的な医療器具”というカテゴリーからはずして、外科用メス、皮下注射器なみの規制とし、その適正な製造工程と無菌的単回使用が求められるようになった。

NIHは長年にわたって、鍼に関するさまざまな研究プロジェクトを資金的に援助してきた。その中には、臨床試験などばかりではなく鍼の作用機序に関する研究も含まれている。また、鍼治療のリスクや効果に関する相当量の文献が世界中に存在しているので、世界保健機関(WHO)では鍼や灸の効果が期待できる各種の病状のリストを作成している。その中には、吐き気や嘔吐の予防や治療;アルコール、タバコ、その他の薬物に関する中毒や痛みの治療;喘息や気管支炎など肺に関係した疾患の治療;脳卒中などを原因とする神経損傷のリハビリなどが含まれる。

鍼に関する重要問題と取り組むために、NIH内の部局である代替医学室と研究医学適用室は、種々の状態に対する鍼治療の利用、リスク、効果に関する科学的、医学的データを評価するための2日半にわたる会議を企画した。この会議は、国立癌研究所、国立心臓・肺・血液研究所、国立アレルギー伝染病研究所、国立関節炎・筋骨格・皮膚病研究所、国立歯科研究所、国立薬物乱用研究所、NIH女性保健研究室が共催した。この会議の参加者は、鍼、疼痛、心理学、精神医学、物理療法ならびにリハビリテーション、薬物依存、家庭医療、内科、保健政策、疫学、統計学、生理学、生物物理学などの各分野に関する国内外の専門家たち、ならびに一般からの代表者であった。

1日半にわたる用意された発表と参加者の討議の後、連邦当局とは無関係の独立した合意形成パネルが組織され、科学的根拠を検討した上で、3日目に参加者に提示された声明の草案が書かれた。合意声明では次のような重要な問題に触れている。

この会議の主催者は国立ヒトゲノム研究所とNIHの研究医学適用室であり、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所、国立心臓・肺・血液研究所、国立小児発達研究所、NIH難病調査室、国立精神疾患研究所、国立看護研究所、NIH女性保健研究室、医療政策研究機関、ならびに疾病抑制予防センターが共催している。

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3)評価に耐えうる十分なデータに基づきプラセボや偽鍼と比較したとき、鍼は効くと言えるか?

鍼は複雑な治療法で、類似の愁訴を持つ患者でも、患者が異なれば治療法も異なる可能性がある。すなわち、患者によって治療に用いるツボや施術の回数、治療期間などが異なり、また治療の過程で使用するツボが変わることもある。このような実状であるが、ある種の病状に鍼が有効であると評価できる質の高い研究が沢山あるのは心強いと言えるだろう。

現在の臨床研究の水準からみると、鍼の有効性をプラセボや偽鍼と比較評価した質の高い研究は少ない。鍼を生物医学的に研究した膨大な数の文献の多くは、症例報告、症例の累積、有効性の評価には不適切なデザインによる介入研究である。

今回行われた有効性に関する議論は刺鍼(手技法または鍼通電)に関するものである。それは公表されている研究の大部分が刺鍼に関するもので、鍼の他の技法や治療法を扱った研究報告が少ないためである。また、これらの比較試験は成人のみを対象としており、長期間(数年にわたる)の治療成績は含まれていない。

ある治療法の有効性を評価するときには、二重マスク比較試験を用い、厳密に定められたプロトコールに従って、プラセボ、あるいは他の治療法と比較しながら治療法の特異的な効果を評価する。論文には被験者を選び出す際の手続き、選抜の基準、臨床症状の特徴、診断法、プロトコールの詳細(すなわち、無作為化の方法、施した治療法の詳細、対照の条件、治療期間、治療回数)などを述べる必要がある。また最善の臨床試験では一般化されたアウトカム(standardized outcome)、適切な統計分析法を用いる必要がある。今回の有効性の評価に際しては、偽鍼あるいはプラセボと比較された質の高い臨床試験に焦点をあてて審議した。

・反応性の違い(response rate).他の治療法と同様に、特定の鍼治療に対する反応が悪い人たちがいる。動物やヒトについての実験室および臨床の経験から見て、鍼に対して大部分は反応するが、反応しない例も少しはある。その一方で、大部分が反応しなかった可能性を示唆する臨床報告もある。このような矛盾した結果の理由は明らかではないが、研究の現状を反映しているのであろう。

・特定の疾病(disorder)に対する有効性 成人の術後の、あるいは薬物療法時の吐き気や嘔吐、さらには多分、妊娠時の悪阻(つわり)にも、鍼が有効であるという明確な証拠がある。

さまざまな疼痛の問題に関しても多くの研究がなされている。歯科の術後痛に有効であるという証拠がある。中には単なる一例研究もあるが、月経痛、テニス肘、線維性筋痛などさまざまな痛みに対して鍼が鎮痛効果を持っていることを明らかにした信頼できる研究がある。このことは鍼が疼痛に対して普遍的な効果を持っている可能性を示唆しているかも知れない。しかし、疼痛に対して鍼の効果が見られないという研究も存在している。

鍼には喫煙を止めさせる効果はなかったという証拠もあるし、アルコール中毒などに対しても効果がない可能性もある。

以上の他にも、文献上はこれまで多くの病状が注目されてきており、確かに鍼が適用できる可能性のある素晴らしい分野があることが研究から示唆されている。しかし現在のところ、その根拠の質と量が有効性の確証を提示するには十分ではない。

・偽鍼(sham acupuncture) 対照群として一般的に用いられているのが偽鍼で、通常のツボを刺激しない方法である。しかし、その際の適切な鍼の位置に関しては議論がある。特に疼痛に関する研究においては、偽鍼にはプラセボとツボに鍼をしたときの中程度の効果、あるいはツボの場合と同様の効果が見られることもある。どこに鍼を打っても生物学的な反応を引き起こすため、偽鍼を用いた研究結果の解釈を複雑にしている。したがって、対照群として偽鍼を用いることには相当の議論がある。しかし、疼痛以外の研究であれば問題は少ないであろう。

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4)十分なデータのそろったさまざまな病状を治療する際に、他の治療法(無治療を含む)と比べて、あるいは他の治療法と組み合わせて、鍼に何ができるといえるか?

ある治療法の有用性を実際の臨床に関して評価する場合は、公式に有効性の評価をする場合とは異なる。従来の西洋医学の臨床では、医師は患者の症状、臨床経験、リスク、同僚や文献からの情報などを基にして判断を下している。さらに、複数の治療法が可能なときは、医師は患者の好みを考慮に入れて選択することも可能であろう。多くの場合、従来の西洋医学的治療にはそれを支持するきちんとした研究上の根拠があると考えられているが、そうではない場合も沢山ある。とはいえ、それらの治療法が無効ということではない。鍼の有効性を支持するデータは、多くの西洋医学的治療法を支持するデータと同じくらい有力なものである。

鍼の長所の一つは有害な副作用の発生率が、多くの薬物や同じ病状に対する他の治療法に比較してかなり低い点である。例えば、筋骨格系の疾患である線維性筋痛、筋筋膜性疼痛、「テニス肘」あるいは上顆炎などは鍼が効く可能性のある疾患である。これらの疼痛を伴う疾患に対しては多くの場合、抗炎症薬(アスピリン、イブプロフェンなど)の投与、あるいはステロイドの注射が行われている。これら二つの治療法には有害な副作用が現れる可能性があるにもかかわらず、未だに広く用いられ、適切な治療法と考えられている。これらの治療法を支持する根拠は鍼治療を支持する根拠と同程度のものである。

さらに、豊富な臨床経験といくつかの研究データは、多くの病状、例えば術後痛、筋筋膜痛、腰痛などに対して鍼治療は妥当な選択肢であることを示唆している。研究上の根拠は弱いが、肯定的な臨床報告があるものには、薬物中毒、脳卒中のリハビリ、手根管症候群、変形性関節症、頭痛などがある。喘息、薬物中毒のような場合は、鍼治療を幅広い管理計画の一部に取り入れるべきであろう。

そのほか多くの病状が鍼によって治療されている;WHOでは可能性のある鍼の適応として40以上の病状をリストアップしている。

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5)鍼の作用機序を理解するうえで、鍼には生物学的にどんな効果があることが分かっているのか?

動物およびヒトでの多くの研究から、鍼が多様な生物学的反応を引き起こすことが明らかになっている。これらの反応は鍼をした部位やその近くの局所に、また主に感覚ニューロンによって中枢神経系内のさまざまな部位を介して遠隔部でも生じる。このことは複数の神経経路を活性化させ、脳だけでなく末梢でもさまざまな生理学的システムに影響を与える。注目の焦点は鍼鎮痛の際の内因性オピオイドの役割である。かなりの証拠が、鍼治療の間にオピオイドペプチドが放出されること、また、これらオピオイドの働きで鍼の鎮痛効果の少なくとも一部は説明できるという主張を支持している。さらに、ナロキソンのようなオピオイド拮抗薬が鍼の鎮痛効果に拮抗することも 上の仮説を有力なものにしている。また、鍼による刺激は視床下部および下垂体を活性化して多彩な全身的影響をもたらす可能性がある。神経伝達物質や神経ホルモンの分泌の変化、ならびに血流の中枢性あるいは末梢性の調節に影響することが証明されている。また、鍼によって免疫機能が変化するという証拠もある。鍼の臨床効果が、これらの作用や他の生理学的変化のどれによるものかは、現在のところ明らかではない。

ツボを解剖学的、生理学的に理解しようとする努力が懸命になされているが、ツボの定義や特徴付けについてはまだ議論が多い。さらに解らないのが伝統的東洋医学の主要な概念である”気”の循環、経絡、他の関連する学説などの科学的根拠である。これらの概念は現在の生物医学的な情報とは調和し難いにもかかわらず、鍼治療では患者の診断や治療法の組立の際に重要な役割を演じ続けている。

鍼による生物学的効果のいくつかは「偽の」ツボ刺激でも観察されるので、評価の際にその生物学的変化を鍼の効果と主張するには、適切な対照群を定義することが一層重要となる。このような現象が明らかになると、その生物学的変化の特異性に関して疑問が生じてくる。さらには、内因性オピオイドの放出、血圧の変化などの生物学的変化は、痛み刺激、激しい運動、あるいはリラックス訓練の後でも観察されるので;鍼がどの程度までこれらの生物学的変化のメカニズムに関わっているのかは現在のところ明らかでない。

鍼を含め、どんな治療法であっても、いわゆる”非特異的”効果がその有効性のかなりの部分を占めていることに注目する必要があり、このことを安易に軽視してはならない。医師と患者の間の関係の質、信頼度、患者の期待度、医師と患者の間の経歴や信条に関する相性など多数の要因が治療結果に深く関わっている可能性があり、無数の要因が同時に治療環境を決定している。

鍼の治療効果をもたらすメカニズム関して不明な点が多く残されているが、多くの鍼関連の生物学的変化を明らかにし、詳細に記載出来ることに委員会は勇気づけられた。今後もこのような方面の研究を続けることは、鍼関連の現象を明らかにする上で重要なばかりでなく、今まで系統的に研究されることのなかった人体生理学の新しい道を切り拓く可能性がある。

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6)鍼を現在の保健医療体系に適切に組み入れるためには、どんな問題に取り組む必要があるか?

鍼の今日の保健医療体系への統合(integration)は、東洋、西洋双方の保健医療関係者の間で用語や施術法について理解が深まることで促進されるであろう。鍼は疾患を指向するというより、全体論的に、エネルギーに着目しながら患者に接することに主眼を置いた診断・治療法である。

鍼を保健医療体系に統合する際の重要な条件は、国の適当な機関による鍼師の養成と免許の授与である。これは一般国民や医師たちに資格のある鍼師であることを認めさせるために必要である。この点に関しては鍼師の教育界にかなりの前進が見られ、今後もこの方向に沿った努力が続けられることが望まれる。医師および医師でない鍼師の両者のための教育基準が定められ、合衆国教育省の認めた一つの機関により多くの教育プログラムが認定されている。医師ではない鍼師のための一つの全国的免許授与機関があり、この分野の能力検定試験を行っている。医師である鍼師のための全国的試験が確立された。

大部分の州が鍼師の免許証発行もしくは登録を行っている。英語が堪能でない鍼師もいるので、必要なら免許や認証のための試験は英語以外の言葉でも実施されるべきである。これらの手続きを通じて与えられる資格はさまざまであり、また免許を得るための必要条件も異なる。州が要求するこれらの条件が異なれば、それによって営業として許される範囲も異なる。各州は免許を与える際の基準を独自に設定する権限を持っているので、これらの基準を一致首尾一貫させれば鍼師資格の信頼が増すであろう。例えば、すべての州が同一の資格試験を認めていないので、州間の相互交流を困難にしている。

鍼の施術の際に有害事象(adverse event)が発生する頻度は大変少ないとされている。しかし、まれに起きた出来事には生命を脅かすものもある(例えば気胸)。このことに対しては患者や消費者の保護のための適切な保護策が整備されることが必要である。患者は治療を受けるに前に、これらのリスクを最小限にするため、治療法の選択肢、期待できる予後、相対的なリスク、安全な施術などについて十分に情報を与えられなければならない。これらの情報は言葉の上でも、文化的にも患者に適した方法で提供すべきである。鍼治療に用いる鍼は常にFDAの規則に従い、滅菌的単回使用にする必要がある。このことは既に多くの鍼師たちが実行しているとされているが、それらの内容は統一されるべきである。患者の苦情や職業上の問題は、認証・免許機関で処理されるようになっており、州の司法当局を利用することもできる。

現在毎年百万人以上の米国民が鍼治療を受けると報告されている。そこで資格のある鍼師が適切な病状に対して施術するように保証する必要がある。また、鍼師と医師の両方の治療を受けたい人も多いので、鍼師と医師の間の交流や連係がさらに強化、改善されなければならない。一人の患者が鍼師と医師に受診している時には、その両者間で情報が交換され、医療上の重要な問題が見過ごされないように注意が必要である。患者の側にも、鍼師や医師の側にもこの情報交換がスムーズにいくようにする責任がある。

支払能力がないために鍼治療が受けられない患者がいることも確かである。多くの保険会社はその気になれば、適当な鍼治療サービスが受けられるように、これらの人々の経済上の障害を減らし、無くすこともできる。現にこれを実行ないしは考慮しはじめた保険会社の数も増えている。州に健康保険計画があるところや、老人医療保険制度(Medicare) あるいは医療扶助制度(Medicaid) を利用している人たちも、鍼治療を受けた費用が保険でカバーされるように制度を拡充すれば、鍼治療を受ける時の経済上の障害を取り除くのに役立つはずである。

鍼が現在の保健医療体系に組み込まれ、研究が進んでさまざまな病状の治療に対する鍼の役割が明らかになり、それらが保健医療関係者、保険会社、政策担当者、一般国民(general public)に理解されることは、鍼治療の適切な利用について十分に知った上での判断(informed decision)を可能にするであろう。

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7)今後の研究はどう進めるべきか?

今日では、何か新しい治療法が既存の医療体系に組み込まれようとする時には、これまでになく厳しい吟味を受けることになる。根拠に基づいた医療(evidence-based medicine)の要請、アウトカム調査(outcomes research)、保健医療組織の管理システム、治療選択肢の過剰などのため、新しい治療法を受け入れさせるのは大変根気のいる作業になっている。この難しさはその治療の根底にある理論が西洋医学とその従事者たちに馴染みがない場合はなおさらである。したがって、特定の病状に対する鍼治療の評価をする際には、厳しい吟味に耐え得るような実験計画のもとに慎重に進めることが大切である。さまざまな病状の処置をする際の鍼の果たす役割の評価を進める場合、今後次のような研究が望まれる。

合衆国および他の国々で鍼を利用する人たちの人口統計やパターンはどうか?

どんな人が鍼を利用しているか?最も普通に鍼治療が使われるのはどのような適応(indication)か? 鍼師の間には経験や技術にどの程度の差があるか?これらに関して地理的、あるいは民族的な差があるか?上のような基本的な疑問についての情報が乏しいのが現状である。記述疫学的な研究がこれらの疑問の答を見つけるのに役立つはずである。そしてその回答が逆に、将来の研究の指針にもなり、国民医療として最も関心のある健康分野がどこにあるかも明らかにするはずである。

現に鍼治療が行われている、また将来行われそうな各種の病状に対する鍼治療の有効性は証明されるか?

今までに、鍼の効果について質の高い無作為化比較試験が行われた論文は比較的少ない。鍼の有効性の評価をするには、これらの研究が綿密な計画のもとに行われる必要がある。さらにこれらの研究には、適切な治療を計画し、実施のために経験豊かな鍼師が参加する必要がある。また、研究では実際の臨床に適用できる鍼を研究することと、鍼治療の理論的基礎を尊重することが強調される必要がある。無作為化比較試験は鍼治療の因果関係を推測するための有力な根拠を提供するものであるが、そのほかの臨床疫学やアウトカム調査などの研究デザインも各種の病状に対する鍼の有用性に関する重要な知見を提供してくれる。今までの鍼の文献にはこの種の研究は少ない。

鍼の理論的基礎が異なると、異なる治療成績が現れるか?

現在、中国、日本、フランスなどの間で理論的方向性に相違があって、それぞれに異なるツボが用いられるなど、治療法に違いがあるようだ。したがって、研究のプロジェクトとして、これらの異なった方法の間で相対的な優劣を評価できるような研究デザインや、特定のツボを用いた治療と結果を比較するような研究デザインが必要であろう。鍼の有効性を広く十分に評価するためには、特定のツボについて研究するばかりでなく、ツボの選び方を含めて、鍼治療の基礎になっている東洋医学体系についても調べるような研究デザインが必要であろう。そのような研究によって鍼の有効性の評価ができるばかりでなく、より効果のあるツボを見つけるとか、中国、日本、フランスなどの間で競い合っている治療法の優劣を検定する手がかりになると思われる。

鍼を現在の保健医療体系に組み入れていくためには、社会政策の面からどんなことを研究すればよいのか?

鍼を一つの治療法として保健医療体系に組み入れようとすれば、社会政策上多くの問題が生じてくる。鍼治療をどこで受けさせるか?、効果に対するコストは?、医療保険の対象にするか?それは誰が支払うのか、州か、連邦か、私企業か?鍼師の養成、免許、認定はどうする?などの問題である。これらの社会政策上の問題はしっかりした疫学的、人口統計学的データと有効性の調査をもとに解決しなければならない。

今後、鍼に関する生物学的基礎はさらに強固になるか?

鍼のいくつかの効果は、現代科学で説明できるメカニズムとして明らかにされている。これは心強いことで、神経、内分泌、その他の生理学的過程の理解に関して新しい視点を開く可能性がある。関連するメカニズムがより深く理解できるように研究を支援する必要があり、そのような研究は鍼治療をの改善をもたらすであろう。

人体に臨床上活用できるような有機的なエネルギーシステムは存在するか?

生化学的、生理学的研究によって鍼には生物学的な効果があることが分かってきたが、鍼治療はエネルギーのバランスという非常に変わった理論に基づいて行われている。この理論は鍼の根拠を明らかにするための医学的な研究に新しい考え方を導入することになるであろう。これらの疑問に対する対処法や回答は、何世紀もの間伝統的に鍼を治療体系の一部としてきた社会の人たちと、最近鍼を取り入れ始めた社会の人たちとの間に差があるのか?

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8)結論と勧告

鍼は治療法の一つとして合衆国で広く普及している。鍼の有用性を示唆する研究が今までに数多く行われているが、これらの研究の多くはデザインやサンプルサイズなどが不備のために明確な結果が得られていない。さらに、この問題はプラセボや偽鍼を対照群として用いる際に特有の困難があり、さらに複雑になっている。とはいえ、例えば成人の術後や薬物療法時の吐き気、嘔吐、および歯科の術後痛に鍼が有効であるという有望な結果が得られている。また、薬物中毒、脳卒中のリハビリ、頭痛、月経痛、テニス肘、線維性筋痛、筋筋膜性疼痛、変形性関節炎、腰痛、手根管症候群、喘息などに対しては、補助的ないしは代替的治療法として、あるいは総合的な管理計画の中に含めて、鍼を利用すれば役立つ可能性がある。さらに研究が進めば他の分野でも鍼治療が役立つことが明らかになるであろう。基礎的な研究の成果として、中枢神経系内や末梢におけるオピオイドその他のペプチドの放出、神経分泌機能の変化など、鍼の作用のメカニズムが明らかになりつつある。まだまだ研究すべきことは沢山あるが、鍼の治療効果について納得できるメカニズムが明らかになってきたことは元気づけられる。治療法の選択肢として鍼を導入することは初期の段階にあるが、社会的には機は熟している。ただ、鍼師の養成、免許、医療保険適用など明確にするべき課題も残されている。鍼には従来の医療に組み入れて活用したり、今後もその生理学や臨床的有用性を研究する価値があることを示す証拠は十分にある。

謝辞

本稿について貴重なコメントをいただいた、全日本鍼灸学会国際部長津谷喜一郎氏、および全日本鍼灸学会学術部研究委員会情報・評価班長七堂利幸氏に深謝します。

なお本原稿は医道の日本誌に掲載された翻訳文を、医道の日本社の許可を得て再編集したものである。

今回パネル、発表者のリストなどは割愛しました。


原文は以下のページでみることができます

http://odp.od.nih.gov/consensus/cons/107/107_statement.html

また、今回の声明文の基となった文献は以下のホームページに掲載されています。

http://www.nlm.nih.gov/pubs/cbm/acupuncture.html