主な研究テーマ
Ⅰ.鍼灸と免疫系
免疫系は、私たちの体を守るために恒常的に働く防御系として存在している。この様な免疫系の調節機構として、幾つかの分子機構が知られている。第一は、サイトカインや神経由来因子などによる細胞の活性の制御であり、第二は、ケモカインや接着分子発現による細胞の移動の制御である。
<鍼灸による免疫系の調節> 第一に、鍼灸刺激が、ケモカインや神経由来物質の産生を誘導することおよび免疫系の組織・器官からのリンパ系細胞の移動を調節することによって免疫系の調節を行いうることが示されている。第二に、鍼灸刺激が、免疫系の組織・器官に働いて、サイトカインや神経由来物質を介して免疫系の細胞の活性を調節を行いうることが示されている。第三に、鍼灸刺激は、刺激局所の細胞に働いてサイトカインの産生誘導を行うことにより局所の防御系の活性を高めている可能性も示唆されている。第四に、鍼灸刺激は、ストレスによって誘発される免疫抑制反応においては抑制系に調節的に働くことにより、ストレスによる免疫抑制の防止効果を示すことが示唆されている。
鍼灸刺激による生体防御系反応の調節は、神経系を介して、または局所の反応系由来のサイトカインを介して行われていると考えられる。神経系は、神経由来因子を分泌することによって、または、内分泌系を調節することによって免疫系細胞の調節を行う。我々は、鍼灸刺激により、血中のT細胞やNK細胞数が増加することを示した。鍼灸刺激は自律神経を介してリンパ系器官に働いてリンパ球を血中へと動員することが考えられる。我々は、免疫系の組織・器官において、サブスタンスP、CGRP、ニューロペプチドY等の神経ペプチドを含有する自律神経繊維が分布していることを示した。鍼灸刺激が免疫系組織において神経由来因子の放出を行っているという報告から、鍼灸刺激で誘発された神経ペプチドが免疫系の機能調節にあたっている可能性が示唆される。我々は、種々の神経ペプチドが、免疫反応の調節に働くことも示してきた。
鍼灸刺激によって誘発される別のカテゴリーに属する生理活性物質としてサイトカインが挙げられる。我々は、鍼刺激により血中へIL-6が誘導されることをヒトおよびマウスで見いだした。鍼灸で誘発されたIL-6などのサイトカインが、生体の免疫能増強に関与していることが示唆される。
この様に鍼灸は、免疫系に対して、幾つかの経路を介して調節効果を示すものと思われる。
(明治鍼灸医学:1990、明治鍼灸医学:1996、明治鍼灸医学1998、全日本鍼灸学会誌:1996、明治鍼灸医学:1997全日本鍼灸学会誌:2000)