主な研究テーマ
Ⅱ.胸腺の器官形成とT細胞初期分化
本学における我々の第一義的役割は、基礎免疫学の分野でしっかりした骨組みを持った研究を打ち立て、明治鍼灸大学の研究として世界に発信することにあると思います。
我々は、基礎的なテーマとして、胸腺の器官形成のメカニズムと機能発現について研究を行ってきており、胸腺の形成過程、胸腺原基の分化・成熟において間葉系細胞の役割、胸腺上皮細胞の役割、造血系前駆細胞の移入について明らかにしてきた(Eur.J.Immunol.1995, Cell.Immunol.1998, Seminar Immunol. 1999, Int. Immunol. 2001)。
マウス胸腺上皮細胞は第3咽頭嚢および第3鰓裂の単層上皮に由来し、胎生9~11日頃にこれらの上皮が鰓弓間葉系細胞間へ陥入することにより胸腺原基が形成される。その後胸腺原基の上皮細胞は、間葉系細胞や造血系前駆細胞との相互作用により胸腺特有の3次元構築を持つようになる。正常マウス胸腺原基の分化過程において、上皮細胞の構築は第3咽頭嚢・鰓裂単層上皮から重層上皮、クラスター上皮の構築変化を経て、最終的には特有の網目構造をとることが示された。他方、造血系前駆細胞の胸腺原基への移入過程においても2つの段階を通ることが明らかとなった。胸腺原基への造血系前駆細胞の移入は重層上皮の段階において始まり、造血系前駆細胞はまず間葉系細胞層に到達した後、クラスター上皮の段階において上皮細胞間へ侵入していくものと考えられた。この移入は、胸腺原基が造血系前駆細胞の遊走を誘導する能力を獲得することによってはじめておこることが示唆された。
無毛と胸腺形成不全を示すヌード変異は、Winged-helix型の転写調節因子をコードするFoxn1(Whn)遺伝子の点突然変異によることが知られている。ヌードマウスにおいて、胸腺分化の欠損は胎生12日のクラスター上皮の段階でおこり、その胸腺上皮細胞は前駆細胞の上皮細胞クラスター内への移行を誘導する機能を欠損することが示された。胸腺上皮細胞におけるFoxn1蛋白の発現は、シート状からクラスター状への組織構築を変化させる過程で認められた。また、Foxn1蛋白は、クラスター状上皮のステージ以降における胸腺組織構築の維持と上皮細胞の機能発現に関与することが示唆された。