大気環境学会 酸性雨情報交換会講演会(2012/7/26-27)
テーマ1:災害と大気汚染
日時:平成24年7月26日(木)14時から17時
場所:名古屋大学環境総合館
特記事項:
原子力発電所の自己を契機に、大気拡散モデルの重要性が再認識されており、誰でもほぼ無料で使用できるADMERやCMAQが実用レベルに達している。今後は環境科学研究の必須手段となってくることが確実である。
特別講演 「原発事故の大気環境影響と予測の可能性」
名古屋大学大学院教授 山澤弘実
原子力安全委員という立場であるにもかかわらず、事故時に現地調査が許されなかったなど、重要なデータを得る機会が失われたため、影響評価などに重大な支障がある。
電源喪失により放射能放出量などの実測データがほとんど得られていないが、大気汚染に用いる数値シミュレーションと、その後の空間線量率や放射能沈着マップなどの実測データを比較することで、放出シナリオを推定できる。このシミュレーションはSPEEDIが稼働しないときにも放出データがあれば被爆線量の推定などに利用可能である。
講演1 「東日本大震災とその後の環境保全」
宮城県保健環境センター 北村洋子
阪神淡路大震災の教訓から、震災後の大気汚染調査の重要性が認識されており、アスベスト、VOC、有害大気汚染物質、重金属などの調査が行われている。アスベストは0.1 本/L 程度と比較的低濃度で推移している。浮遊粉塵はがれき処理が進んでいないことから粗大粒子濃度が高い傾向にある。重金属では、CrとMnが100ng/m3 程度検出されたが、木材の焼却はまだ始まっておらず原因はあきらかではない。
宮城県の測定施設は壊滅的な状態であり、全国の研究所のボランティアにより測定が行われている。 焼却処分が開始される今後は、ダイオキシンの監視などを強化していく必要がある。
講演2 滋賀県大気シミュレーションモデルによる光化学オキシダント及び放射性物質の拡散予測」
滋賀県琵琶湖環境化学研究センター 園 正
福井県の原子力発電所の再稼働問題により、大気シミュレーションモデルを用いて原子力発電所から放出される放射性物質の拡散予測を行う検討を行っている。基本的にCMAQを用いることである程度信頼できる推定が可能であった。シミュレーションは安価に行うことができるが、原子力発電所からの放出データが提供されるかどうかが鍵となる。現状では滋賀県には放出データが提供されることは無い。
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テーマ2:沈着量推定方法
日時:平成24年7月27日(金)9時から15時
場所:名古屋市環境科学調査センター
「フィルターパック法における流量および捕集ろ紙の影響」
北海道環境科学研究センター 野口泉
窒素酸化物の捕集には従来ナイロンろ紙が用いられてきたが、圧力損失が大きいことと本来捕集されるべきでないアンモニアが捕集されるという欠点があった。NaFを捕集剤としたろ紙を採用したところ、試料大気量を増やすことができるだけでなく、圧力損失が抑制されたことにより捕集後の揮散も元気的に減少した。
「乾性沈着推計ファイルについて」
埼玉県環境科学国際センター 松本利恵
気象データは気象庁から、土地利用情報は国土交通省から、各種パラメータ及び推計ファイルは北海道環境科学センターから入手する。条件設定など実測値と整合性がとれるように繰り返し調整する必要がある。
「ADMERについて」
名古屋市環境科学調査センター 山神真紀子
ADMERは産総研が提供している、暴露リスク評価のための大気拡散モデルである。排出量と気象条件から5km×5kmのグリッドで計算する。Google-Earthにも対応しており、高価なGISを必要としない。位置情報は世界測地系を使用。
アメダス及び排出量データは、ADMERから直接ダウンロードできる。
「CMAQについて」
兵庫県環境研究センター 堀江洋佑
CMAQはHYPACTと並ぶ高度な化学輸送モデルである。気象モデルであるRAMSやWRFと併用する。Linuxベースで動き、現在では20万円程度のPCで実用に堪える。ほとんどのソフトウエアは無料で入手可能であるが、FORTRANやLinuxの知識が必要であり、兵庫県ではセットアップに3ヶ月以上要した。
添付資料