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線維筋痛症候群(fibromyalgia syndrome: FMS)
概 要
線維筋痛症候群(fibromyalgia syndrome:FMS)は全身に広がる慢性的な筋痛を主訴とし、同時に全身倦怠感や睡眠障害などの様々な不定愁訴を訴える症候群です。当初、FMSは血液検査やX線検査などで特別な異常が見つからないことから筋リウマチや非関節型リウマチなど多くの名前で呼ばれ、また症状の変化に心因的な要因が大きく関与することからその存在すら疑われた時期もありました。しかし1990年にアメリカリウマチ学会により分類基準が作成され、FMSの一般的な診断基準とされています。
FMSの診断基準は、広範囲に及ぶ疼痛が3ヶ月以上持続し、全身18箇所に存在する圧痛点のうち4kg以下の圧力で11箇所に疼痛が存在することで、症状としては全身の疼痛以外に全身倦怠感や睡眠障害・慢性頭痛や過敏性腸症候群などの随伴症状を併発します。実際このような診断基準を満たす者は患者全体の2%以上であると予想されており、20~60歳代の女性に特に多いと言われています。またある調査では60歳以上の女性に限ればFMSの診断基準を満たす患者は7%を越えるとの報告もあります。このことから慢性的な筋骨格の痛みを広範囲に訴える場合、FMSを念頭に置いた診断・治療が必要となります。
しかしながら、本邦ではFMSに対する認知度が低いこと、またFMSに対する有効な治療法が確立していないことなどからFMSと診断されることは少なく、このような症状を訴える疾患の多くは難治性や心因性の疾患として取り扱われていることも少なくありません。
症 状
FMSは広範囲にわたる筋骨格の痛みを訴える症候群で、筋付着部に多数の圧痛が存在することが特徴です。FMSは全体の75%以上が女性で、特に20-60歳の発生率が高いとされています。疼痛は筋肉と軟部組織の痛みが中心で、首および腰などの体軸部分に集中するが特に近位僧帽筋に生じることが多いです。また疼痛以外にはこわばりや全身倦怠感を訴え、他に随伴する臨床病態として過敏性腸症候群、頭痛、しびれ感などが臨床上問題となります。一般に症状は中等度の運動、睡眠障害、情動的ストレス、湿気の多い天候など様々な要素により悪化することから、診断や治療が難しいし疾患の一つとされています。
診 断
1990年にアメリカリウマチ学会が作成したFMSの診断基準は、広範囲に及ぶ疼痛が3ヶ月以上持続し、全身18箇所に存在する圧痛点のうち4kg以下の圧力で11箇所に疼痛が存在することで、X線や血液検査などの所見に異常が見当たらないものとされています。
FMSであるかどうかの手がかりとして、浦田らは①女性であること、②全身の疼痛を訴えること、③全身倦怠感や頭痛・過敏性腸症候群・睡眠障害などの合併があること、④全身の圧痛が存在することなどをあげており、このような症状が存在するときはFMSを疑う必要があるとしています。
<関連文献>
・ 伊藤和憲, 北小路博司:圧痛・硬結の臨床的意義. 鍼灸OSAKA, 19(4): 287-293, 2003.
疫 学
FMSの診断基準を満たす者は患者全体の2%以上であり、20~60歳代の女性に特に多いと言われています。またある調査では60歳以上の女性に限ればFMSの診断基準を満たす患者は7%を越えるとの報告もあります。
一方、FMS患者のQOLはインスリン依存性糖尿病患者やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者、人工肛門患者と比べても低いとされています。このことから慢性的な筋骨格の痛みを広範囲に訴える患者に対してはFMSを念頭に置いた診断・治療が必要です。
原 因
FMSの病因、病理に関しては、筋肉のエネルギー代謝障害、筋肉の炎症、筋肉の免疫異常、痛覚の障害、セロトニンとソマトメジンCの代謝障害など様々な仮説が報告されているが、その詳細は未だ不明です。現在世界で多くの研究者が研究を行っています。
治 療
治療は基本的に抗うつ薬の投与が第一選択肢とされていますが明確な治療法はなく、症状や身体機能障害の程度に応じて認知療法や運動療法など様々な角度からのアプローチが必要とされています。
一方、Deluzeらは線維筋痛症の患者に対して鍼通電治療を試み、良好な結果を得たことを報告していることから、我々はこの病気に対する鍼灸治療の可能性を現在模索しています。
→そのため明治国際医療大学附属鍼灸センターでは線維筋痛症専門外来を開設しています。このような症状に心当たりがある方は、一度鍼灸治療を受けてみて下さい。
治療日:火曜日
診療時間:14:00-16:00(要予約)
治療担当:伊藤 和憲
連絡先:明治鍼灸大学 附属鍼灸センター 0771-72-1210まで
<線維筋痛症候群に関する治療報告>
・ 伊藤和憲, 越智秀樹, 北小路博司, 勝見泰和:線維性筋痛症候群が疑われた1症例に対する鍼治療の試み.
全日本鍼灸学会誌, 53(5):658-664, 2003.
・ 伊藤和憲, 越智秀樹, 北小路博司:線維筋痛症候群に対する鍼灸治療の効果. -慢性的な全身疼痛を主訴とした4症例に対する鍼通電治療-. 日本東洋医学雑誌, 55(3):331-336, 2004.
<参考文献>
1) 浦田幸朋, 天保英明, 中川市三郎. 線維性筋痛症候群. 治療. 2002;48(6):1747-54.
2) Wolfe F, Smythe HA, Yunus MB, Bennett RM, Bombardier C, Goldenberg DL, et al. The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of fibromyalgia: report of the multicenter criteria committee. Arthritis Rheum. 1990;33:160-72.
3) Wolfe F, Ross K, Anderson J, Russell IJ, Hebert L. The prevalence and characteristics of fibromyalgia in the general population. Arthritis Rheum. 1995;38:19-28.
4) Deluze C, Bosia L, Zirbs A, Chantraine A, Vischer TL. Electroacupuncture in fibromyalgia: results of a controlled trial. BMJ. 1992;305:1249-52.
5) 岡本連三. リウマチの外来リハビリテーション -主訴からみるコツ つかれやすい(身体的・精神的)-. J Clin Rehabil, 2002;11:304-12.
6) 松本美富士. 線維性筋痛症候群. 治療. 1996;78:1429-31.
キーワード:線維筋痛症・線維筋痛症候群・線維性筋痛症・線維性筋痛症候群・FM・fibromyalgiaa
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