ケミカルシフトとカップリング

ケミカルシフト(化学シフト)とカップリング(化学結合)           戻る

原子の周囲にには電子雲があり、この電子雲の電子の軌道運動は磁場のなかで磁場を弱めるように働きます。このように磁場を遮蔽する効果(磁気遮蔽効果)は分子結合に電子が利用される場合少しずつことなります。つまり同じ原子核でも分子結合が異なると少しずつ受ける磁場が異なり、異なった共鳴周波数となります。この周波数の移動をケミカルシフト(化学シフト)は静磁場の強さに依存しています。このため、周波数で示すのでなく、基準物質の共鳴周波数からのずれを共鳴周波数で除した値を利用し、ppm(100万分の1が1ppm)で表します。生体に含まれる代謝物質のケミカルシフトは1Hでは約10ppm、31Pでは約40ppmの範囲にあります。

一方、分子内では隣接する原子の核磁化が作る磁場が影響を与えます。1Hのスピンは1/2であり、その核磁化は平行と反平行の2種類の磁場を作り、その割合はほぼ同数であるため、ほぼ大きさの等しい2つの信号として分かれます。もし結合している原子核が2つあるとさらに2つに分裂します。しかし、その分裂の大きさが等しいと中央の2本の信号が重なり大きさの2倍の一本になり、1対2対1の3本の信号に分裂します。エタノールのメチル基(CH3)はCH2の2つの水素分子でこのような分裂を示します。このような原子間の相互作用をカップリング(化学結合)によって分裂する大きさはJ値とよばれ、分子内の原子の結合状態を反映して異なります。

これらのケミカルシフトとカップリングによる分裂の大きさは分子構造を知るためにNMRスペクトルで利用されています。また、分子毎の特徴を示すパターンは生体内の代謝物のように混合物に含まれる分子を予想するために利用することができます。特に生体ではほぼ単一なピークを示すメチル基(CH3)などが計測しやすく、脳内の1H-MRSでもN-アセチルアスパラギン酸(2.02 ppm)やクレアチン(3.0 ppm)、コリン化合物(3.2 ppm)などのピークが強く認められます。