研究報告


加齢鍼灸学ユニット
江川雅人 准教授

高齢者医療としての鍼灸医学の取り組み
パーキンソン病や
肺気腫に対する鍼灸治療を通して

高齢社会が現実となった今、感染症等の急性疾患に代わって、加齢に伴う退行性疾患をはじめとする慢性疾患がふえています。西洋医学の進歩は多くの疾患に効果をあげてきましたが、加齢に伴う慢性疾患に対しては、薬物投与ばかりに頼らない医療が求められていると感じます。私自身は、明治国際医療大学を1期で卒業した後、喘息やアトピー性皮膚炎などの内科的な疾患に対する鍼灸医療の可能性について研究してきました。その成果を、我が国が直面している高齢医療の場で実践し、応用してみたいと感じています。現在、主に取り組んでいるのは、パーキンソン病や肺気腫です。
パーキンソン病は中脳の一部に障害が生じて「ドーパミン」という神経伝達物質が枯渇して起こる病気で、振戦(ふるえ)や筋肉のこわばりなどが生じる高齢者特有の疾患です。西洋医学では、枯渇したドーパミンを服用する治療(L-DOPA療法)が主流です。
しかし、それは常に副作用と背中合わせですから、多くの患者さまは少しでも投薬量が減らせたらと望んでいるのです。鍼灸治療には、振戦を軽減し、筋肉のこわばりを緩和する効果があります。鍼灸治療の併用により、症状が軽減するばかりでなく、時には投薬量を減らすこともできるのです。肺気腫も同様です。肺気腫は肺が酸素を取り込み、ガス交換を行う場である肺胞が壊れてしまう病気です。薬物療法による気道の拡張や酸素吸入療法が行われますが、鍼灸治療では呼吸運動をつかさどる筋肉の機能を回復させるなど、呼吸リハビリテーションのような作用があります。
パーキンソン病にしても肺気腫にしても、西洋医学の効果と長所を活かしながら鍼灸治療を併用し、効果をあげているのです。このような東西医学の補完と融合による新たな医療の形態が、明治国際医療大学における高齢者医療の現場で実践されているのです。

健やかな長寿社会の実現に向けて
健康寿命の獲得と抗老化への取り組み

20世紀は「延命の医学」の時代であったといわれています。医学の発達により、飛躍的にのび続けてきた我が国の平均寿命も、今後はそれほど大きくのびることはないと考えられています。21世紀に求められているのは、単なる延命治療ではなく、健やかな長寿を実現するための医療なのです。現在、多くの老年医学研究者が、「抗老化」や「健康寿命」をキーワードに研究を行っています。
鍼灸治療においても、病気の治療という視点ばかりではなく、高齢者の日常に鍼灸治療を取り入れることによって、こりや冷えといった症状が緩和されるのはもちろんのこと、初老期のうつや、骨折の原因となる転倒の予防に繋がるのではないかと考えています。健康寿命の獲得と抗老化のために、古来より高齢者に優しい医療であった鍼灸医学が今、再認識され、応用されようとしているのです。

研究風景研究風景

地元南丹市日吉町に所在する高齢者福祉総合施設「はぎの里」にて。同施設は、鍼灸師にとって重要なスキルアップのひとつとなる“高齢者との関わり方”を習得する「老年ケア実習」の場でもある(鍼灸学部と保健医療学部の4年次に実施)。