和辻 直(わつじ ただし) 准教授
鍼灸学部 基礎鍼灸学講座 プロフィール 教員紹介

研究について

──先生はどのような研究をされていますか?

 東洋医学の診察や治療について研究しています。例えば、東洋医学では舌をみて、体調の状態を判断します。舌と体調との変化について、調査しています。また東洋医学の体調を東洋医学の健康調査票を使って、患者さんの心身の状態を把握しています。
 人間ドックの患者さんを対象に調査した結果では、従来の西洋医学における血液検査、尿検査、超音波検査などの結果で異状なし判断された方でも、東洋医学では異状とする場合が多く認められました。

──それらの研究はどのような意味を持っているのでしょうか

 東洋医学の診察に関する研究は、鍼灸臨床において、診察の意義や価値を高めます。また東洋医学の所見は、診察者の主観的所見として捉える場合が多く、客観的計測できるものとの比較を行い、その所見の有用性を証明することに意味があります。
 東洋医学の診察・治療の意義を研究によって明らかにしていくことは、現代医療に応用しやすくなります。これまで充分に対応できなかった愁訴を軽減でき、疾病予防や疾病の緩和に役立ちます。

──その成果はどのように社会に還元される(役立つ)のでしょうか

 日本において超高齢化が進んでおり、健康の維持や増進が重要な課題となっています。この健康維持や増進に貢献できるのが鍼灸診療であります。特に東洋医学の診察は、西洋医学の違った観点で、心身の状態を把握することができるため、病院の検査で異状を認めなくても、本人が気づいていない心身の変調を捉えることができます。つまり病気になる前に、早期発見することができる予防的診察に活用できます。

社会貢献について

──どのような社会貢献をされていますか

あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師試験委員をしています。鍼灸師になる時に受験する国家試験の問題を作成しています。

──どのような学会(研究会・グループ等)に所属されていますか

全日本鍼灸学会、日本統合医療学会、日本伝統鍼灸学会、日本中医学会、バイオメディカルファジィシステム学会などです。

──どのような活動をしていますか

 学会活動は、日本伝統鍼灸学会では理事・学術部副部長を行い、学術大会の運営の支援、学会賞を授与する委員長を行っています。また日本統合医療学会では代議員、資格認定委員会委員を行い、「はり師・きゅう師の認定指導師」となって認定医や認定師への支援を行っています。
 全日本鍼灸学会では評議員、学術部委員、認定鍼灸師の試験委員、近畿支部委員などを歴任しています。さらに医工学・文系の学会であるバイオ・メディカル・ファジィシステム学会でも監事、奨励賞の委員長を行い、他分野の交流を深めています。他に日本東洋医学会関西支部役員、日本中医学会評議員など担当しています。

臨床について

──鍼灸臨床ではどのような方法をよく使いますか

 基本的には、現代医学的な診療を基本に、東洋医学的な診療を得意として用います。

──どのような症状や病気を診ることが多いですか

 通常の臨床では、腰痛、肩こり、膝痛などをみることが多いですが、その訴え以外にも対応することが多いです。例えば、倦怠感、冷え症、血行障害、抑うつ状態、不妊症、なども診ることが多いです。

──鍼灸臨床のご専門があれば教えて下さい

 冷え症や不定愁訴に対する診療が専門です。(不定愁訴;患者さんからの症状や訴えが主観的で多岐にわたり、検査で異状がなくて客観的所見に乏しい状態)
 また末梢循環障害、外科手術後の不定愁訴、緩和ケアなどを多く診ています。

──印象に残っている症例があれば教えてください

 何十年と「冷え症」を患っていた方が、4〜5回の鍼灸治療を行うことで、冷え症が改善した症例があります。患者さんから大変喜ばれたことが、印象的です。
 緩和ケアの患者さんで、がん性疼痛の疼痛コントロールが概ねできているものの、疲労感、むくみ、腹部膨満感、イライラなど幾つかの不定愁訴に対して、鍼灸治療が有効でした。患者さんが他界される1週間前まで、鍼治療をすると体や心が癒やされると言われ、鍼灸治療を心待ちにされていたことが印象的です。

鍼灸を志したきっかけについて

──先生が鍼灸師を志したきっかけを教えてください

 私は高校生の時に初めて、喘息になりました。懇意にしていた叔母が鍼灸師で、肩こりに鍼をお願いしたことはあったのですが、喘息は気休め程度しか効かないと思っていました。しかし叔母が胸に鍼を刺した瞬間に、先ほどまで「ぜーぜー」という喘息発作が止まったことが、一つのきっかけでしょうか?鍼灸治療の効果を瞬時に実感できた貴重な体験でした。

──なぜ本学を選んだのですか

 医療系に進路を進むこと考えた時に、日本で初めて鍼灸大学が開学するかもしれないというニュースを触れ、以前の鍼灸体験を思い出しました。未だ専門学校しかない鍼灸師の教育制度に新たな光が当たることに、とても興味を持ち、薬学部の受験を止めて、鍼灸大学の受験を決めました。
 また建学の精神に「和」という言葉があり、「人と自然との調和」という意味も含まれています。都会に住んでいた私は、受験前に見学に行った時に本学の立地条件に驚きました。しかし大学パンフレットで、この建学の精神に触れ、東洋医学を学ぶには、自然から大切さを学ぶという意味で、環境も重視している点に惹かれました。

注)このインタビューは平成26年度に行いました。

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