
片山 憲史(かたやま けんじ) 教授
鍼灸学部 保健・老年鍼灸学講座 プロフィール 教員紹介 夢ナビ
研究について
──先生はどのような研究をされていますか?
1)約30年間に渡り、運動器系疾患、特にスポーツ領域の臨床的および基礎的研究を行っています。臨床的研究では、各種スポーツ傷害の治療効果、基礎的研究では、筋疲労や遅発性筋痛に対する鍼灸の効果や機序に関する研究です。
今は立場的に、教室員や大学院生の研究指導が中心です。最近のテーマは、運動誘発性酸化ストレスやスポーツビジョン(動体視力)、筋損傷の修復に関する研究などです。
2)スポーツ系以外には、産学協同研究としてツボ刺激を応用した医療系ソックス(冷え性緩和、便通異常の緩和、疲労回復など)の開発を受託研究として実施しています。その成果は特許として出願しています。
──それらの研究はどのような意味を持っているのでしょうか
スポーツに係る人達は、オリンピックや世界選手権等の国際大会に出場する様なトップアスリートのみならず、健康増進や趣味で行うスポーツ愛好家まで様々な目的を持っている多くの対象者がいます。しかしながら、試合で充分な実力を発揮できない、傷害によってスポーツを断念せざるを得ないケースも多くみられます。スポーツ鍼灸では、そのような状況を回避し、より円滑にスポーツが行えるようにサポートする目的があります。
また、競技レベルが上がれば上がるほど、鍼灸治療の目的は傷害の治療から予防やコンディショニングに移ってきます。最高のパフォーマンスが発揮できるよう、ベストなコンディションに持っていく手助けは鍼灸が非常に優れています。これは鍼灸師にしかできないことであり、メンタルを含めた細かな愁訴に対応することでさらに鍼灸の良さを発揮できます。
──その成果はどのように社会に還元される(役立つ)のでしょうか
スポーツ傷害の治療や予防、さらに最高のコンディションを獲得する目的で鍼灸施術が実施されていますが、現状では、EBMは十分ではありません。まだまだ分からないことが多いですが、治療の根拠を示せるように1つずつ研究により明らかにして教育や社会に還元していく使命があります。そのような思いで研究を遂行してきました。これまでの成果は、各種の学会や講演会、小・中・高校生対象のスポーツ医療講座などで社会にフィードバックしてきました。
学会活動について
──どのような学会(研究会・グループ等)に所属されていますか
全日本鍼灸学会を始め、体力医学会、健康科学学会、各種のスポーツ医学会・研究会などです。
──なんという役で、どのようなお仕事をされていますか
全日本鍼灸学会では、スポーツ研究班の副班長を長年しています。主な仕事は、学会におけるスポーツ分野のシンポジウムやパネルディスカッションなどのコーディネート、国体やオリンピックなどにおけるスポーツケアのマニュアル作りなどです。
臨床について
──鍼灸臨床ではどのような方法をよく使いますか
運動生理学や機能解剖学に基づいた現代医学的な方法を主に臨床を行っています。スポーツ選手のコンディショニングには全身的な治療や東洋医学的な治療も行っています。
──どのような症状や病気を診ることが多いですか
シンスプリントや腰痛、筋付着部炎(エンテソパシー)、肉離れなどのスポーツ傷害やアスリートに関してはコンディショニングや傷害の予防目的が多いです。また、一般の患者では、肩こり、腰痛、膝痛などの運動器系疾患を多く診ます。
──鍼灸臨床のご専門があれば教えて下さい
各種のスポーツ傷害や運動器系の疾患が主になります。
──印象に残っている症例があれば教えてください
小学生の頃から野球をしている少年の治療やコンディショニングで鍼灸施術をしていた選手が、高校生になり京都の強豪校の主将で4番バッターとして甲子園で準優勝をしました。10年間、鍼灸施術によりマイナートラブルを回避し、最高の状態で野球ができた事です。
20年間鍼灸治療を継続して行ってきた89歳の婦人が、主訴の膝痛や腰痛の軽減以外に鍼灸治療を開始してから一度も風邪を引かなくなったと言われ、驚きと共に鍼灸の良さを再認識しました。
腰痛の治療をしてもなかなか良くならない患者さんに婦人科の受診を勧めたところ、ソフトボール大の卵巣嚢腫が見つかりました。鍼灸だけでは対応できない病気もあり、医師と連携することも重要です。先生のおかげで病気が早期に発見できたと感謝されたときは嬉しかったです。
鍼灸を志したきっかけについて
──先生が鍼灸師を志したきっかけを教えてください
小・中・高と12年間水泳を選手として行ってきました。高校生の時、腰椎椎間板ヘルニアになり、水泳だけではなく日常生活にも支障を来す強い腰痛に悩んでいました。当時は医学的な知識はありませんので、このまま将来まで強い腰痛が続くのかと不安な毎日でした。そんな時に鍼灸院を紹介されて治療を受けたところ症状が改善しました。鍼灸治療だけではなく、精神的なケアやアドバイスも受けて不安が解消しました。その経験が鍼灸師を目指したきっかけです。
──なぜ本学を選んだのですか
昭和56年当時、専門学校以外では唯一の短期大学(明治鍼灸短期大学)として本学が開校されていました。そのような状況の中で鍼灸についてより高度な勉強をしたいと思い本学を選びました。
注)このインタビューは平成26年度に行いました。