
江川 雅人(えがわ まさと) 教授
鍼灸学部 保健・老年鍼灸学講座 プロフィール 教員紹介 夢ナビ
研究について
──先生はどのような研究をされていますか?
現在の主な研究の対象は、高齢者疾患や高齢者に特徴的な症状を対象とした鍼灸治療に関する臨床研究です。具体的な疾患としては、パーキンソン病や認知症などです。また、病院に通うことなく、在宅で治療を受けている患者さんを訪問して治療を行う「在宅鍼灸治療」を実践し、これからの高齢社会における鍼灸治療の応用方法について研究しています。
──それらの研究はどのような意味を持っているのでしょうか
現在の日本は65歳以上の高齢者が人口に占める割合が25%を越えて、超高齢社会を迎えています。老化に伴う様々な疾患や症状は、完全に治すことが難しく、症状を安定させながら生活の機能を維持することが必要です。また、副作用の少ない、身体に優しく、継続可能な治療が必要です。そうした意味で、高齢者医療における鍼灸治療の果たせる役割は大きいものと考えます。
──その成果はどのように社会に還元される(役立つ)のでしょうか
パーキンソン病に対する鍼灸治療については、附属鍼灸センターと附属統合医療センターにおいて専門的な治療外来を開設し、鍼灸治療を行っています。また大学に隣接している高齢者福祉施設「はぎの里」でも鍼灸治療を行っています。最近では、在宅における鍼灸治療を実践し、「在宅医療における鍼灸医学の役割」に関する研究も行っています。
このような鍼灸治療の成果は、各学会の講演会や本学同窓会の研修会等でも紹介し、多くの先生の参考にしていただいております。
学会活動について
──どのような学会(研究会・グループ等)に所属されていますか
全日本鍼灸学会、日本自律神経学会、日本認知症ケア学会、日本アレルギー学会に所属しております。日本抗加齢学会では「抗加齢指導士」の資格を取得しました。抗加齢(アンチエイジング)という領域において、どのように鍼灸治療を応用していくかという研究は、これからの大きな課題だと感じています。
──「抗加齢指導士」は鍼灸にどのように役立つのでしょうか
抗加齢(アンチエイジング)医療とは、年齢を重ねることによって生じた病気について、それを治すよりも、発症を予防したり症状を緩和したりして、身体機能を維持しようとする医療です。その中にはサプリメントの応用、食養生や運動などの生活指導も含まれます。私は、本来、鍼灸治療は高齢者の治療に適していると考えており、さまざまな治療方法と鍼灸治療を組み合わせることによって、より新たな、我が国独自の抗加齢医療が実践できるものと考えています。
臨床について
──鍼灸臨床ではどのような方法をよく使いますか
私は、師から「鍼灸」の治療的視点の特徴は『全体性』である、と学びました。患者が訴える多様な症状に耳を傾け、その関連性について常に考察しながら治療を行うように心がけています。パーキンソン病患者が訴える循環器症状や、アトピー性皮膚炎患者が訴える消化器症状など、関係なく見えても患者の生活機能の改善や、治療効果を上げるために重要なヒントであることがしばしばあります。そうした観察力と考察力をさらに身につけて、治療に臨みたいと考えています。
──どのような症状や病気を診ることが多いですか
高齢者に特徴的な症状や病気を診ることが多いです。先ほどから出ているパーキンソン病では振戦(ふるえ)や歩行困難を訴えます。慢性閉塞性肺疾患(COPD)では呼吸困難や息切れを診ます。高齢者では、何気ない症状、例えば肩こりや動悸、息切れなどが、高齢者うつ病の症状として表れている場合も多く、しばしば鍼灸治療の対象となります。
また、以前にはアレルギーの病気も研究しており、アトピー性皮膚炎や気管支喘息もよく診る病気です。
──鍼灸臨床のご専門があれば教えて下さい
「パーキンソン病鍼灸治療専門外来」とアトピー性皮膚炎鍼灸治療専門外来」を開設しています。
──印象に残っている症例があれば教えてください
いま、在宅治療でお伺いしている患者様の症例に強い興味を持っています。他人様の敷居を跨いで鍼灸治療を行うことは、的確な治療技術ばかりでなく、治療の説明やあいさつの仕方、ご家族との会話など、治療センターでの診療以上に気を配らねばなりません。この年齢になって、今一度、1人の人間として鍼灸治療を行うことの尊さを感じています。そして、患者様だけでなくご家族の笑顔を見られたこと。これからの研究と教育に大きな意味を持つ一例を、いま現在体験しています。
鍼灸を志したきっかけについて
──先生が鍼灸師を志したきっかけを教えてください
鍼灸師になったら大金持ちになれると聞いたので(笑)。
高校を卒業後、予備校に通っていた時期に、日本初の四年制鍼灸大学「明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)」の開学を知りました。鍼灸師という仕事が、更に認められると期待してこの世界に飛び込んだのです。特別な技術を持って、病気を治して、喜ばれる、そんな仕事に憧れたのです。
──なぜ本学を選んだのですか
当時、唯一の鍼灸大学だったからです。
喧噪な街中で育ったので、自然の溢れる大学の環境も嫌ではありませんでした。最初は寮で共同生活でしたし、先生方との距離も近く、楽しい学園生活を送れたと思っています。
注)このインタビューは平成26年度に行いました。