福田 文彦(ふくだ ふみひこ) 准教授
鍼灸学部 臨床鍼灸学講座 プロフィール 教員紹介

研究について

──先生はどのような研究をされていますか?

 がん患者や心の病(メンタルストレス)の疾患・症状に対する鍼灸治療の臨床・基礎研究、鍼灸師に必要なコミュニケーション力に関する教育を行っています。
 その中でも本学附属病院内科と連携して「終末期の患者さんへの鍼灸治療」、大阪大学生体機能補完医学講座、大阪ブレストクリニックと連携して「癌治療による副作用の軽減」を行っています。また、「鍼灸刺激に対する脳内モノアミンの変化」「鍼灸治療による抗ストレス効果」の基礎研究が主なテーマです。
 2006年には、灸刺激による脳内のセロトニン、ドパミンの変化に関する研究で明治東洋医学院研究奨励表彰 優秀賞をいただきました。

──それらの研究はどのような意味を持っているのでしょうか

 鍼灸臨床では運動器系愁訴の治療が主ですが、がん患者の愁訴の軽減や心の病(メンタルストレス)への鍼灸治療は新たな領域です。また、心の病、特にうつ病の増加は我が国の社会問題です。科学的根拠を基に、これらの領域に鍼灸治療を広げていくことは、大きな意味があるとともに、何よりも心身ともに苦しんでいる患者さんのためになると考えています。

──その成果はどのように社会に還元される(役立つ)のでしょうか

 がん患者は、身体的、精神的、社会的、霊的(生きること意味への問いかけなど)に多くの苦痛を持ち、それが相互に関係して患者さんに苦痛を与えます。したがって、病気の治療以外にも身体症状、精神的支援など様々なサポートが必要です。
 鍼灸治療では心と身体を同時にケアできると考えていますので、医師をはじめとする他の医療職種の方たちと連携しながら、多くのがん患者さんに喜んでもらえる医療を提供できると信じています。
 心の病に対しても同じことが言えます。心の病を抱える多くの患者さんは身体症状も訴えています。鍼灸治療によって心身ともに健康な状態を取り戻し、社会復帰できるようサポートできると信じています。

社会貢献について

──どのような学会(研究会・グループ等)に所属されていますか

 所属・発表している学会は、全日本鍼灸学会、日本東洋医学会、日本癌治療学会、日本乳癌学会、日本緩和医療学会、日本補完代替医療学会、eBIM研究会などです。共同研究者や指導している大学院生とともに、これらの学会で毎年開催される学術大会などで臨床や研究成果を発表しています。

──(役職がある場合)なんという役で、どのようなお仕事をされていますか

 全日本鍼灸学会では、常務理事(学術部長)、eBIM研究会では評議員を拝命しています。
 全日本鍼灸学会での仕事は、鍼灸における「学」と「術」を根拠に基づいた医療として質を高め、患者に安全で効果的な鍼灸医療を実践できるための成果発表や情報交換、卒前・卒後教育が実践できる学術大会を目指して活動しています。

臨床について

──鍼灸臨床ではどのような方法をよく使いますか

 鍼灸臨床の現場では、患者にとって最善な事は何かを意識して行っています。そのためには、現代医学的病態(推定される病名)や患者の心理(精神)状態を正確に把握することを心掛けています。また、患者にとっての「生きがい」とは何かを考えています。
 鍼灸治療では、過去の研究成果による鍼灸治療法(エビデンスに基づく鍼灸治療)、症状と関連する身体の機能や構造に基づく鍼灸治療、東洋医学的な診断に基づく鍼灸治療を患者に応じて組み合わせて行っています。
 患者さんは、本当に懸念していること、誰かに話したいこと、理解して欲しいことをなかなか話せないものです。それが鍼灸師により理解され、真剣に受け止められることを実感すれば、患者さんの精神的苦痛は軽減します。がん患者さんや精神的ストレスのある患者さんは、積極的に話を聴き(傾聴)、その心を共感し、さらに気持ちや物事の整理、正しい知識を伝える患者教育を活用しています。私は鍼灸師なので、これらを“くちばり(口鍼)”と言っています(笑)。

──どのような症状や病気を診ることが多いですか

 附属病院の内科病棟では、内科関連の病気や入院に関する心身の愁訴、および終末期の患者さんを診ています。共同研究をしている施設では、がん治療にともなう副作用、特に化学療法による副作用のある患者さんを診ています。
 附属鍼灸センターでは、一般の患者さんに加えて、うつ病やストレスが身体症状・身体疾患を引き起こす神経症や心身症の患者を診ています。

──鍼灸臨床のご専門があれば教えて下さい

 ストレス関連疾患(うつ病、神経症、心身症など)、がん患者の症状に対する鍼灸治療です。

──印象に残っている症例があれば教えてください

 印象に残っている患者さんは、たくさんいますが、末期がんの患者さんでベッド上での生活から鍼灸治療を初めて一時外出が可能となった症例や、休職中のうつ病患者さんが職場復帰できた症例でしょうか。
 しかし、同じくらい印象に残っているのは、鍼灸治療を行っている末期がんの患者さんを鍼灸治療していて看取ったことはつらい経験です。また、病院にいると患者さんの急変時、最後の看取り時は、鍼灸師は無力感を持ちます。その無力感が、本来の我々の役割、西洋医学と鍼灸学の良いところを合わせた、理想とする医療を気づかせてくれました。

鍼灸を志したきっかけについて

──先生が鍼灸師を志したきっかけを教えてください

 高校卒業時には、医療関係の仕事に関する大学への進学を考えていましたが、残念なことに合格したのが、本学のみでした。入学前は、“はり”“きゅう”のことは、子供の頃に悪さをして親指大のもぐさで手にお灸、いわゆる“やいと”をすえられた程度しか知りませんでした。大学に入学後も勉強はそこそこで、アルバイトでスイミングスクールのコーチをしていたことから漠然とスポーツトレーナーを目指していました。
 大学卒業後、運よく附属病院の研修鍼灸師(現:大学院修士課程 臨床鍼灸学専攻)に合格し、附属病院での研修や鍼灸臨床を行う中で今のような自分になりました。

──なぜ本学を選んだのですか

 その当時、鍼灸系大学は、本学しかなかったのが理由です。でも、今もし大学に入学するとしても、本学を選ぶと思います。その理由は、鍼灸臨床が研究とともに進められていることと、附属病院をはじめ、西洋医学がしっかり学べることです。

注)このインタビューは平成26年度に行いました。

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