
石崎 直人(いしざき なおと) 教授
鍼灸学部 臨床鍼灸学講座 プロフィール 教員紹介 夢ナビ
研究について
──先生はどのような研究をされていますか?
私はこれまで内科領域の鍼灸治療に興味を持って勉強してきました。その中で内科の先生の勧めもあって始めたのが、糖尿病に関する研究です。糖尿病は血糖値が高くなって、その影響で手足がしびれたり、眼や腎臓が悪くなったりする病気で、多くの人が困っています。糖尿病には病院の検査や治療が欠かせませんが、病院できちんと診てもらっていても、血糖値が不安定だったり、足のしびれが続いたりして、困っている人は多いのです。私はこのような症状に鍼灸治療が使えないだろうかと思って研究をしてきました。
──それらの研究はどのような意味を持っているのでしょうか
鍼灸治療は、腰やひざの痛みによく使われていて、鍼灸治療を受ける人の多くはそのような痛みを訴えてくるのですが、そういう患者さんたちの中には内臓の問題を抱えている人もたくさんいて、それらの症状にも同時に対処してあげる方が生活の質が上がる場合が多いのです。特に糖尿病の人はしびれやだるさ、胃腸の不調などさまざまな問題を抱えている人が多いので、こうした患者さんに対処できることは、鍼灸治療の幅を広げることにつながると思っています。
──その成果はどのように社会に還元される(役立つ)のでしょうか
糖尿病は全世界で増え続けていて、日本でも2,000万人以上の人が糖尿病、もしくはその予備軍といわれています。糖尿病患者さんのケアに鍼灸治療を活かすことは、患者さん自身にとって有益なだけでなく、医療費や介護の問題などの是正にも貢献できると信じています。
社会貢献について
──どのような学会(研究会・グループ等)に所属されていますか
全日本鍼灸学会、日本東洋医学会、日本温泉気候物理医学会、日本糖尿病学会に所属しており、研究成果を各学会の学術大会で発表したり、執筆した論文を投稿したりしています。
──(役職がある場合)なんという役で、どのようなお仕事をされていますか
私は2014年度から全日本鍼灸学会の国際部副部長で理事もさせていただいています。日本でもグローバル化が叫ばれて久しいですが、鍼灸の世界でも国際的な活動は活発になってきています。国際部員は世界鍼灸学会連合会という会にも毎年参加しています。昨年はオーストラリアのシドニーで会議があり、日本からは私を含めて3名が理事に選出されました。
鍼灸治療は世界中で利用されていて、学校や法制度などもどんどん整備されていく中で、国際的な基準を作るのが急務となってきています。グローバル人材として育成された若い人たちには、今後世界の場で活躍する鍼灸師を目指してほしいと願っています。
臨床について
──鍼灸臨床ではどのような方法をよく使いますか
鍼灸治療では、痛みがあれば、その場所に鍼をしたり、お灸をしたりする場合も多いのですが、私が専門としている内科領域であれば、内臓に鍼を刺すわけにはいきません。そうではなくて、手足のツボを刺激しても内臓の調子は調えることができるのです。
そのツボを選ぶ基準が東洋医学の理論です。たとえば有名な足三里というツボは、ひざの下にあるのですが、胃腸の調子を調えるのに大変効果があるツボで、胃経という経絡にあります。このような発想は、西洋医学の解剖学や生理学でははっきり解明されていませんが、東洋医学では経験的に知られていて、実際に臨床の現場で利用されているのです。
──どのような症状や病気を診ることが多いですか
鍼灸センターには肩こりや腰痛、膝の痛みといった症状を訴えて来られる患者さんが多いのですが、そういう患者さんでもよくよく聞いてみると便秘があったり、食後の胃もたれがあったり、不眠で悩んでいたりすることが多いのです。私はそのような症状を特によく聞いて治療してあげるようにしています。最初は腰痛で来ていた方でも、便秘が良くなったりすると、喜んで他の患者さんを紹介してくれたり、他の症状についても相談されたりするようになります。
──鍼灸臨床のご専門があれば教えて下さい
内科領域の症状、特に消化器(胃腸)、糖尿病に関する訴えなどが中心ですが、高齢の方は一人で多くの症状を抱えている場合が多いので、他の症状も含めて全体的に対処するよう心がけています。
──印象に残っている症例があれば教えてください
私が本学の附属病院で研修していた頃に、末期がんの患者さんを担当したことがありました。いつも決まった時間に治療をしていたのですが、ある晩、病棟を歩いていたら、家族の方に呼び止められて、痛みが今強くて大変苦しんでいるので鍼をしてもらえないかと言われました。研修生で経験も浅い私を頼みの綱と思って声をかけてもらったことにまず感激したことと、少ない知識でなんとか痛みを止めたいと祈るようにして施した鍼治療が効いて、患者さんが楽になったと言ってくださったときには本当に嬉しい思いがしました。鍼灸治療はシンプルな手段ですが、それをつかって人助けができることに感動しましたね。
鍼灸を志したきっかけについて
──先生が鍼灸師を志したきっかけを教えてください
私の実家は鍼灸マッサージをやっていました。家を継ぐという気持ちもあって鍼灸学校への進学はずっと考えていました。
──なぜ本学を選んだのですか
私が高校3年生の時に、全国初の4年生鍼灸大学が京都にできることが新聞の一面に大きくとりあげられていました。京都での生活にも魅力がありましたし、西洋医学も学んで鍼灸を科学的にしようというコンセプトに共感してすぐに決めました。
注)このインタビューは平成26年度に行いました。